企業が機関投資家と個人投資家に対して示す態度は大きく異なる。機関投資家は会社に対する否定的な情報を得ても、すぐに保有株式を売却することはなく、秘密情報を得てもそれを広めないという信頼がある。一方、個人投資家は少額しか投資していないため、会社の内部の不備を知るとすぐに保有株式を売却し、噂を広める可能性が高い。そのため、企業は個人投資家に対して会社の外見しか見せない。
会計監査人ではない限り、会社の内部を自由に歩き回ることはできない。個人投資家は企業探訪時に企業が見せたい部分だけを見て、納得するしかない。
事前に財務諸表のコピーや質問を準備して誠実な回答を得ようとする投資家もいる。しかし、会社側が誠実に答えてくれても正直に答えてくれるとは限らない。アナリストが訪問しても、企業は有利な資料しか提供しようとしない。不利な資料はできるだけ隠そうとする傾向がある。高級情報が漏洩した場合、企業関係者は外部への流出を防ぐように要請するため、アナリストは個人投資家向けのレポートにその内容を含めることは難しい。
メディアの記者は企業探訪においてやや有利な立場にあるが、訴訟のリスクのため慎重にならざるを得ない。企業が提供する報道資料を異なる解釈で記事にすると、訴えられる可能性があるからだ。そのため、企業の主張をそのまま掲載することが多い。記者ごとに担当する業種と企業が分かれているため、否定的な記事を掲載すると将来的な関係を維持することが難しくなる。
アメリカでエンロンの株価が不安定になったとき、多くの投資家がエンロンを訪問した。会社と財務諸表を徹底的に分析しても問題が見つからなかったため、投資を決意した。エンロンに対する悪い噂が流れ、財務諸表に問題があるとの主張が出たときも、一部の価値投資家は「他人が恐怖に震えているときに買うべきだ」とエンロンの株をさらに買い増しした。しかし、企業が意図的に詐欺を働こうとすると、どんなに優れた分析家が調査しても問題を見つけるのは難しい。
企業探訪は会社の実態を把握するための有用な手段だが、その限界を理解し、慎重にアプローチする必要がある。機関投資家と個人投資家への差別的態度、信頼性のある回答を得ることの難しさ、メディアの制約など、様々な限界を考慮する必要がある。また、エンロン事件のような事例からも、企業探訪だけで全ての問題を把握することは難しいという点を忘れてはならない。投資家は様々な情報を総合的に分析し、企業探訪の限界を認識した上で慎重な投資判断を下すべきである。